製造工程において排水が発生する産業施設では、排水処理システム(WTS)は、工場の操業許可取得および生産活動の実施にあたって必要不可欠な法定要件の一つとなっております。
産業排水処理システムの概要
産業排水処理システムとは、工場からの排水に含まれる汚染物質を効率的に除去するための処理設備および先端技術を統合したシステムです。産業排水には重金属、有害化学物質、および病原性微生物が含まれており、適切な処理が実施されない場合、深刻な環境汚染を引き起こす可能性があります。本システムは、法定排水基準に準拠し、処理水を放流する前に環境品質基準を確実に満たすことを保証いたします。排水処理システムは一般的に、施設全体の統合的な運用を確保するため、MEP(機械・電気・配管)システムの配管部門に組み込まれております。
事業者は、生産工程の特性および処理要件に応じて、物理的処理、化学的処理、生物学的処理など、最適な排水処理方式を選定することが可能です。工場排水の環境放流にあたっては、ベトナム国家技術基準QCVN 40:2011/BTNMTに規定される水質基準(A基準またはB基準)を遵守することが義務付けられております。
項目番号 | 水質項目 | 単位 | 規制基準値 | |
A基準 | B基準 | |||
1 | 水温 | °C | 40 | 40 |
2 | 色度 | Pt/Co | 50 | 150 |
3 | pH値(水素イオン濃度) | – | 6~9 | 5.5~9 |
4 | 生物化学的酸素要求量(BOD5、20°C) | mg/l | 30 | 50 |
5 | 化学的酸素要求量(COD) | mg/l | 75 | 150 |
6 | 浮遊物質量(SS) | mg/l | 50 | 100 |
7 | ヒ素(As) | mg/l | 0.05 | 0.01 |
8 | 水銀(Hg) | mg/l | 0.005 | 0.01 |
9 | 鉛(Pb) | mg/l | 0.1 | 0.5 |
10 | カドミウム(Cd) | mg/l | 0.05 | 0.1 |
11 | 六価クロム(Cr6+) | mg/l | 0.05 | 0.1 |
12 | 三価クロム(Cr3+) | mg/l | 0.2 | 1 |
13 | 銅(Cu) | mg/l | 2 | 2 |
14 | 亜鉛(Zn) | mg/l | 3 | 3 |
15 | ニッケル(Ni) | mg/l | 0.2 | 0.5 |
16 | マンガン(Mn) | mg/l | 0.5 | 1 |
17 | 鉄(Fe) | mg/l | 1 | 5 |
18 | シアン化合物 | mg/l | 0.07 | 0.1 |
19 | フェノール類 | mg/l | 0.1 | 0.5 |
20 | ノルマルヘキサン抽出物質含有量 | mg/l | 5 | 10 |
21 | 硫化物(S) | mg/l | 0.2 | 0.5 |
22 | フッ素(F) | mg/l | 5 | 10 |
23 | アンモニア性窒素(N) | mg/l | 5 | 10 |
24 | 全窒素(T-N) | mg/l | 20 | 40 |
排水処理システムの構成設備と基本構造について
工場排水処理システムは、油水分離槽、スクリーニング設備、砂沈殿槽、流量調整槽、生物反応槽、消毒設備などの基本的処理設備により構成されております。排水処理システムの各処理設備は、排水を環境へ放流する前段階において、水中の汚濁物質および有害物質を効果的に除去するため、それぞれ特有の処理機能を果たしております。
- 油水分離槽/腐敗槽:厨房施設などから排出される動植物性油脂類および生産工程で使用される油分を効率的に分離・除去する設備です。
- スクリーニング設備:排水中の浮遊固形物および粗大夾雑物を確実に捕捉・除去する設備です。
- 砂沈殿槽:水より比重の大きい無機性浮遊物質、特に砂分などの沈降性物質を効率的に沈殿・分離する設備です。
- 流量調整槽(集水槽):排水の水質・水量変動を均一化し、pH値を安定化させることで、後段の生物処理を効率的に行うための設備です。
- 第一沈殿槽:流入する排水中の浮遊物質を重力沈降により分離し、汚泥として槽底に沈殿させる設備です。
- 嫌気槽:微生物の働きにより、排水中の窒素およびリンの生物学的除去を行う重要な処理設備です。
- 好気槽(エアレーションタンク):活性汚泥法により有機物を生物学的に分解し、バイオマス(CO2と水を含む)に変換する設備です。微生物は活性汚泥フロックとして増殖・集積し、有機物の酸化分解を促進します。
- 第二沈殿槽:生物処理工程で生成された活性汚泥を重力沈降により分離し、清澄な処理水を消毒工程へ送る設備です。返送汚泥は好気槽へ返送されます。
- 消毒設備:放流水中の病原性微生物を次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒剤により不活化し、安全な処理水として環境へ放流するための最終処理設備です。
排水の性状および法定排出基準に応じて、各事業者は業種や規模を考慮しつつ、適用される規制要件を遵守した最適な排水処理システムの設計・構成を選定することが可能です。
産業排水処理システムの重要性と役割
排水処理システムは、環境関連法規の遵守および持続可能な生産活動の実現に不可欠な設備であり、国際機関・取引先が定める環境配慮型生産に関する厳格な基準への適合を可能とする重要な役割を果たしております。
- 環境保全:水域、土壌、大気への環境負荷を最小限に抑制し、水生生態系への悪影響を未然に防止することで、環境保全に貢献いたします。
- 法令遵守:環境関連法規を確実に遵守することで、事業許可要件を満たし、生産活動の継続的な実施を確保するとともに、環境規制違反に伴う法的リスクを回避いたします。
- 水資源の有効利用:高度処理システムの導入により、処理水の再利用が可能となり、上水使用量の大幅な削減および水道コストの低減を実現することができます。
法令遵守および生産性の維持向上のため、排水処理設備の定期的な保守点検を実施し、システムの安定運転を確保するとともに、設備トラブルの未然防止および装置寿命の延長を図ることが重要です。なお、排水量が比較的少ない事業所においては、コスト効率化の観点から、産業排水処理の専門業者による収集・処理サービスの活用も選択肢の一つとして考えられます。
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